国際比較と未来への提言
世界の看護は、もっと自由に、もっと地域に寄り添っている
日本の「訪問看護」「看護師の独立開業」をめぐる制度は、
国際的にみても極めて制限が強い状況にあります。
「2.5人基準」やチーム必須義務は、むしろ日本独自の例外。
世界では「ひとり開業」はすでに当たり前の仕組みとして広がっており、
それが地域の医療・看護の質を高める柱にもなっています。
このページでは、国際比較のデータとともに、
日本の制度の課題と未来への提言をまとめました。
🌍 国際比較データ
- OECD加盟国のなかで、訪問看護にチーム義務を課している国はほぼ存在しない
- オーストラリア/カナダ/英国/米国などでは、看護師は「個人事業主」として地域で自由に活動可能
- 高齢化が進む国ほど、地域密着の看護活動に「ひとり開業」が活用されている傾向が強い
🚧 日本の現状
- 看護師の裁量権が狭く、自由な訪問や起業が事実上阻まれている
- 地域ニーズに対して機動的な看護サービスを届けづらい
- 人材不足の中で、潜在看護師の活用機会を自ら狭めている
- いまや制度が地域包括ケアの足かせになっている現実もある
🔮 未来への提言
1️⃣ 「ひとり開業」は必要な選択肢であると明確に認める
2️⃣ 2.5人基準の撤廃、開業要件の柔軟化
3️⃣ 看護師の自由裁量と責任をセットで明文化
4️⃣ 海外事例を積極的に共有し、制度の再設計を急ぐ
5️⃣ 市民の理解を高め、「ひとり開業は危ない」という誤解を正す
🗾日本のいま
“制度はある。でも自由がない”──日本の訪問看護は、医療保険と介護保険のダブル制度で成り立っています。
しかし、看護師個人が開業することは制度上できず、チーム体制や管理者要件といった厳しい制限が設けられています。
- 医療保険と介護保険に基づく2本立ての報酬体系
- サービス提供は訪問看護ステーションからのみ可能(※病院・診療所型を除く)
- 開業要件:原則2.5人以上のスタッフ、管理者は専任常勤
- ひとり開業は制度上“不可”であり、個人の裁量や創造性を活かしにくい構造
- 財源は公費+保険料の組み合わせだが、在宅医療・看取りへの評価は乏しい
近年は訪問看護の役割が拡大しつつあるものの、制度の設計が現場の柔軟性と乖離しており、休廃業も相次いでいるのが現実です。
🔗 詳しくはnote記事へ:👉 日本の訪問看護レポート@2025
①アメリカ編
アメリカでは、訪問看護は「公的保険制度(Medicare)」によって支えられながらも、営利企業がその多くを担う“市場型モデル”で展開されています。
- 民間エージェンシーが主導する運営体制
- Value-Based Purchasing(成果連動型報酬)制度
- 訪問は短時間・週数回、チームケアが基本
- 慢性期ケアの限界や不正請求問題も
「制度の出口に“在宅”を置く」という発想は、日本の地域包括ケアを再構築する上でもヒントになるはずです。
📖詳しくはnote記事へ: 👉アメリカ編|世界の訪問看護レポート①
②スウェーデン編
スウェーデンの訪問看護は、「高福祉国家モデル」のもと、医療と福祉のほとんどが公的責任で提供される体制です。
地域(県)と自治体が役割を分担し、訪問看護は原則無料で利用できます。
- 自治体・地域の公務員看護師が中心の提供体制
- モバイルチーム(移動型看護師)による医療処置も展開
- 訪問と看護外来(ナーシングクリニック)の組み合わせで効率化
- 看護師不足により、介護スタッフへの処置委譲も増加中
- 高度なケア集中と、中軽度者への支援空白が課題に
「公的に手厚く支える」モデルの裏には、“届かないケア”という矛盾も潜んでいます。 日本が制度を見直す上でも、「手厚さと普遍性の両立」を問い直すヒントが詰まっています。
🔗 詳しくはnoteへ:👉 スウェーデン編|世界の訪問看護レポート②
③デンマーク編
“在宅ケアを制度の軸に据える”──その発想を本気で実現しているのがデンマークです。
訪問看護は医療法に基づく自治体責任の公的サービスとして、無償で提供されています。
- 98の自治体が自ら設計・運営する柔軟な体制
- 公務員看護師による自治体直営型ケア
- 在宅での点滴・処置に対応する急性期対応チーム(Municipal Acute Teams)
- ナースクリニックや専門看護チームでの効率化も
- 一方で、人材不足や自治体間の格差も課題に
「ケアの即応性」と「自治の柔軟性」。
このふたつを両立させる仕組みとして、デンマークの制度は多くのヒントを与えてくれます。
🔗 詳しくはnote記事:👉 デンマーク編|世界の訪問看護③
④ノルウェー編
“看護師がケアの主軸”──ノルウェーでは、在宅ケアの要として看護師が制度的に位置づけられています。
福祉国家としての手厚さを維持しながら、予防・在宅・終末期をつなぐ看護のあり方が実践されています。
- 訪問看護は全自治体で義務的に提供される公的サービス
- 高齢者ケアの中心を「施設から在宅」へシフト
- RN(正看護師)を中心とした多職種チームでの地域ケア
- 地方部でも24時間対応のナースステーション型サービスを展開
- 看取りも含めた終末期の在宅支援が制度的に保障
看護師が“つなぐ存在”として、医療・生活・死をケアするノルウェーの仕組みは、 「制度の中に“看護の軸”をどう据えるか」を問いかけてくれます。
🔗 詳しくはnote記事へ:👉 ノルウェー編|世界の訪問看護④
⑤中国編
“制度なき急増”──中国では、高齢化が急速に進むなかで、訪問看護の需要が高まっていますが、公的制度としての整備はまだ発展途上です。
現状は、医療・介護の分断、都市と農村の格差、民間主導の模索が混在する状況です。
- 訪問看護の国家制度は未整備だが、試行地域やモデル都市で導入が進行中
- 都市部を中心に、病院看護師が個別契約で訪問対応する「個人訪問型」
- 医療・介護の連携制度は整わず、家族介護・家政婦(アーヤイ)依存が現実
- 高齢者人口の増加により、在宅支援人材の需要が急拡大
- 政策的には「地域在宅ケアのモデル整備」が始まっている段階
まだ制度は揃っていない──だからこそ、中国の現場では「民間発」「家族発」「医療機関発」のさまざまなモデルの実験が同時進行しています。
🔗 詳しくはnote記事へ:👉 中国編|世界の訪問看護⑤
⑥韓国編
“制度はある。でも、使われない”──韓国では1990年代から医療保険による訪問看護制度が整備されていますが、実際の利用率は非常に低いというギャップを抱えています。
- 訪問看護は医療保険適用のサービスとして制度化済み
- 主な提供者は病院・クリニックに所属する看護師
- 財源制約から、提供時間・内容に厳しい制限あり
- 訪問件数は少なく、制度上は存在していても“使いにくい”現実
- 一方で、がん末期や認知症など、特定領域では在宅対応が進展
また、韓国の地域包括ケアモデルは日本よりも“医療機関主導型”で進んでおり、看護師の裁量や役割は限定的になりがちです。
🔗 詳しくはnote記事へ:👉 韓国編|世界の訪問看護⑥
⑦シンガポール編
“制度と家族とコミュニティ”──シンガポールの訪問看護は、政府・地域団体・家族の三者連携によって支えられています。
医療・介護の統合は未整備ながら、地域のNGOやボランティアが訪問ケアの中核を担う独自のモデルが展開中です。
- 長期療養費支援に備える任意保険(エルダーシールド/ケアシールド)が制度的基盤
- 訪問看護は主にNGO・慈善医療機関が提供(政府からの補助あり)
- 公立病院の外郭団体がコミュニティナースを派遣
- ケアの多くは医師の指示のもとで動く看護師チームが担う
- 利用者は収入に応じて自己負担額が変動(低所得者は全額補助もあり)
急速に進む高齢化に対応すべく、「病院から地域へ」「施設から在宅へ」という政策転換が進行中。
🔗 詳しくはnote記事:👉 シンガポール編|世界の訪問看護⑦
⑧オーストラリア編
オーストラリアでは、訪問看護は高齢者支援制度(My Aged Care)の一部として提供されており、医療保険(Medicare)とは別に、公的補助による在宅ケアサービスが展開されています。
非営利団体や州政府が主導するモデルに加え、近年は制度改革や地域格差是正への取り組みも進行中です。
- Commonwealth Home Support Programme(CHSP):軽度支援向けの在宅サービス
- Home Care Package(HCP):要介護度に応じた包括支援制度
- 急性期・慢性期で制度分化、Hospital in the Home型の訪問医療あり
- 非営利65%、営利26%、公的9%の多様な事業体制
- 地域格差や人材不足、長期待機が大きな課題に
「医療保険外でも、制度的に訪問看護を機能させる」──
その柔軟性と地域に合わせた支援設計は、日本の地域包括ケア制度を見直す上でも、多くのヒントが得られるはずです。
▶詳しくはnote記事へ:👉 オーストラリア編|世界の訪問看護 ⑧
⑨カナダ編
カナダでは、訪問看護は国民皆保険(メディケア)制度の枠外に置かれ、在宅ケアは各州政府の裁量で提供されています。
全国統一制度はなく、「制度化されていないが、各地で工夫され機能している」というユニークなモデルです。
- 州によって制度設計が異なる(公的直営型/委託型)
- 主な提供者:非営利(VONなど)+営利企業(CarePartnersなど)
- 訪問看護は基本無料だが、給付時間に制限あり
- 人材不足・待遇格差・州間格差が大きな課題に
- 2023年、連邦レベルで全国基準策定の動きも
「全国制度がない」からこそ見えてくる、地域の知恵と制度設計の柔軟性。
“制度はないが現場は動いている”カナダの実態は、日本の制度改革にも多くの示唆を与えてくれます。
▶ 詳しくはnote記事へ:👉 カナダ編|世界の訪問看護⑨
⑩イギリス編
イギリスでは、訪問看護は国民保健サービス(NHS)による公的直営モデルとして運営されており、全国民が無料で利用可能です。特に「地区看護師(District Nurse)」による訪問体制が整備され、プライマリケアと統合された地域ケアが特徴です。
- 税方式で運営される全国一体の医療制度(保険料不要)
- District Nurseは大学院修了の専門職で、地域看護チームの中核
- 給与は全国共通のNHS賃金体系に基づく
- 慢性的な人手不足と業務過多が課題(District Nurse数は10年で約43%減)
- Virtual Ward(仮想病床)など在宅急性期対応の強化が進行中
公共サービスとしての訪問看護を追求してきた英国。その理想と現実のはざまには、日本が学ぶべき制度設計の視点が詰まっています。
▶ 詳しくはnote記事へ:👉 イギリス編|世界の訪問看護⑩
⑪フランス編
フランスの訪問看護は、自由業看護師(Infirmière libérale)による個人開業モデルが制度内で認められており、“ひとりで働く”ナースたちが地域のケアを支えています。医療保険による報酬制度のもと、主治医の処方に基づくケアが全国で展開されています。
- 自営業登録のナースが、公的医療保険と連携して訪問ケアを提供
- 一人で1日15〜25件の訪問をこなす例も(移動・事務・処置を全て担う)
- 報酬は国の定める診療報酬表(NGAP)に基づく出来高制
- 自由業ゆえの自由さと、長時間労働・事務負担という自己責任の重さ
- 都市と農村での人材分布の偏在、若手の自由業離れも進行中
“ひとりでも制度内で訪問看護ができる”という選択肢は、日本の将来像にとっても示唆的です。
▶ 詳しくはnote記事へ:👉 フランス編|世界の訪問看護⑪